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    犬は横へとびこんだ。だが、匂も嗅がず、草の中から頭を出して、房一の方をしきりと眺めながら同じ方向に歩いている。

    「あ、さうだ。お茶、お茶。おい、お茶を出してくれ」

    徳次は、両手に海苔まきとゴマをまぶした握飯と二つとも慾ばつて持ち、紙の袖をいやといふほどたくし上げ、冠をどこかへ脱ぎすてたので、いがくり頭ときよろりとした眼とを何かむき出した風に目立たせながら、足を踏んばつて云つた。

    「さうです、小倉組の方ですな」

    「徳次」だの、「橋本屋」だの、「殺されかゝつてる」、「小倉組」だのいふ言葉がきれぎれに耳に入つた。

    「大石練吉です」

    相手が急に三人にふえたためか、柵の中の長身な男は一層興奮した。

    徳次は一種くさめをする前のやうな、煙けむたげな表情になりながらわき見をしたり、房一を眺めたり、どぎまぎして答へた。

    「ウシ!ウシ!」

    「高間さん、ひとつ何とかして引上げさせて下さい。このまゝでは――」

    徳次は房一が顔を洗ふ間傍に立つて眺めていた。それからふいに訊いた。

    「ふむ、もうよろしい、よろしい」

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