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ざつと四十人近い客数であつた。その半ばあたりへ来ると、直造は一々前まで行くのを止めて、ふりかへつては「山下さん、お次へどうぞ」と云ふ風に名を呼びはじめた。だが、房一の所へはなかなか来なかつた。大部分の客が席に居並んだ頃になつて、房一は漸く自分を呼ぶ直造の稍しやがれた声を聞いた。
と、練吉は房一の方をふりむいた。
「時に、お宅は鍵屋の分家の後ださうですな。あすこは大分前から空家になつていたと聞いていましたが」
「あ、さうだ。お茶、お茶。おい、お茶を出してくれ」
「本当も本当でないもありやしませんよ。財産譲渡無効、その返還を請求したのだよ」
「やあ」
練吉は顔をしかめ、手を振つた。
房一の老父、道平が二三日前に倒れたのだつた。そして、今、練吉に対診を求めて来たのである。
と、ゆつくりはじめた。
「往診?ふむ、ふむ」
傷は三箇所を縫つた。
「まあ、いゝでせう。せつかくぢやありませんか」――
「いや、挨拶まはりですよ。どうぞよろしく」